Event Report

「D&I実現が生み出すソーシャルインパクト」

- セッションレポート -

2021年11月25日、地方創生、D&I、脱炭素というテーマを掲げた、「日本橋SUSTAINABLE SUMMIT 2021」が開催された。本レポートでは、日本橋拠点の2社が取り組む「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」のセッションレポートをお届けする。

本セッションのファシリテーターとして、山岡仁美氏(サステナブル・ブランド国際会議 D&Iプロデューサー)が紹介され、セッション「D&I実現が生み出すソーシャルインパクト」がスタート。セッションの登壇者は、株式会社新生銀行 グループ人事部セクションヘッド 兼 ダイバーシティ推進室長 西村陽子氏と、中外製薬株式会社 サステナビリティ推進部 社会貢献グループ グループマネジャー加藤正人氏の二名。

ファシリテーターの山岡氏は、コロナにより変化した産業構造や企業戦略が、就業構造も変化させていると時代の変化に触れ、それに伴い、長時間労働、単身赴任、満員電車による通勤など、「ダブルインカム・ツーキッズ」という家族の在り方が無理のない世界をつくるためには変化させなければいけない現状について所感を述べた。そのためにも障がい者、マイノリティ、海外の方などの多様な人々を巻き込んだ新たな価値創造に向かうべき時代であると問題を提起。今回のテーマであるD&Iは、SDGsの生命線であるとした上で、本セッションのキーワードとして「ワークインライフ」「イクオリティ」「ウェルビーイング」「エンゲージメント」「エンパワーメント」「ギフトエコノミー」「ディーセントワーク」などを挙げた。

山岡氏の話を受け、新生銀行の西村氏によるD&Iをテーマとした講演がスタート。銀行業界のニッチプレイヤーであるがゆえに、他社にはないユニークなサービスを提供し続けなければならない、という新生銀行の立ち位置を説明し、それを成立させるための人材、つまりダイバーシティ推進が経営戦略の柱であると自社の方針を紹介した。

社内の代表的な取り組みとして、2018年度以降注力してきた「女性活躍推進」を挙げ、あくまでも成功事例ではなく苦労話の共有である、と前置きした上で詳細を説明。ビジネス部門のトップが委員長を務める女性活躍推進委員会を設置し、ビジネス戦略としてダイバーシティを推進する意気込みを社内に示すところからスタートした取り組みだ。本人の特性、キャリア志向に基づいた育成計画を立てた上で登用をしていく女性人材育成プログラムもスタートさせた結果、プログラム参加者99名の内、半数以上が昇格するという結果を導いた。また、「女性活躍」という文脈では一括りにとらえられがちな女性だが、一人ひとりの特性に注目し、本人すら気づかない多様性に気付いてもらうといった考え方が重要であると語った。

続けて、新生銀行グループ外の多様な人材の獲得に向けた柔軟なはたらき方改革にも言及。数値から見れば、今では社内の80名ほどが副業中、同じく80名ほどがカムバックして働き、社員のうち50%以上が中途採用であるという。多様な方が活躍するために多様な選択肢が必要である、という考え方のもと、在宅勤務はもちろん、自宅以外の場所での勤務も認められており、自転車通勤制度なども生まれている。最近では、従業員の性別役割分担意識の解消を狙い、男性も取得できる育児休暇制度「はぐくみ休暇」もはじめた。こうした取り組みを、ただ人事が取り入れると決めるだけでなく、職場でリーダーや社員をどれだけ巻き込めるかがダイバーシティ推進における重要なポイントであると念押しした。

多様な人材が所属しているだけでは、ダイバーシティ推進はできない。一人ひとりがお互いのつよみや個性を遠慮なくぶつけあえる環境をつくることが、新しい価値を生みだすのではないか。万能な答えはない時代だからこそ、トライアンドエラーを繰り返していくべきでは、とまとめた。

続いて、中外製薬の加藤氏による講演がスタート。社外での社会貢献活動が、社内D&Iの推進に繋がっているということを、事例を交えながら紹介した。

1925年に創業した同社はほぼ100年企業。2002年に経営統合してフランス ロシュグループとして再スタートを切っている。その際、改めて自分たちの姿を見直し「中外製薬は革新的な医薬品とサービスの提供を通じて、新しい価値を創造し世界の医療と人々の健康に貢献する」と、企業理念を刷新。その際「社会貢献活動を本業と切り離すのではなく、本業と合わせて両輪とし、企業理念の実現を目指していく」と定めたという。健康への貢献という理念を目指すために同社が優先分野として掲げているのが「医療」「福祉」「共生社会」「次世代育成」「地域社会」の5分野。今回はその中でも「共生社会」についての取り組み事例として、障がい者スポーツ支援について語った。

きっかけは、障がい者がリハビリの一環としてスポーツに取り組むことが多い、という情報だったという。加藤氏本人も知識がなく、他の社員に聞いても未知の分野だったため、まずは知ってみようということで、啓発のための冊子をつくり、全従業員経由で家庭に配り始めた。また、パラリンピック金メダリストの講演会を開催したり、横浜の学校でのブラインドスポーツ体験会や競技用車いすのこども体験会などを企画したりし、社員やそのご家族、特にお子さんなどの周囲を巻き込みながら知見を深めていった。
こうした活動を通して、社内でもある気づきがあったという。ボランティアなどを通して参加してくれていた社員が、自分が好きなこと、得意なことを障がいのある方と一緒におこなうことで、障がい者と健常者ではなく、同じ好きなスポーツをする仲間という関係になっていったという点だ。また、目隠しをしておこなうブラインドスポーツの体験を通して、高齢者の視力低下問題への理解が高まったり、車いすスポーツの体験を通して、育児世帯の気持ちが理解できるようになったりするなど、社外に向けた社会貢献活動として実施していた活動が、意外にも、社内における多様性の尊重に繋がったと報告した。

二名のピッチを終え、パネルディスカッションへと進行。会場からの質問も募りつつ、山岡氏がキーワードを提示していった。
「エンゲージメント」に関しては、社員を信頼し金融機関ながらも服装自由化に踏み切った会社と従業員の信頼関係に西村氏が触れ、「イクオリティと社内文化の関係」については、加藤氏が障がい者スポーツの支援を通して固定観念が外れ、一つの個性としてあるがままに見れるようになった、と話した。「ワークインライフ」がテーマになると、10年以上育児と仕事の両立に試行錯誤したという西村氏から「コロナ禍のこの2年間、まずは生きなければいけないという状況に追い込まれたことにより、仕事より先に生きることがあることに気付けたのでは。まだワークインライフを実現できているとは言えないが、全員が同じ見解を共有できているのではないか」と時代をポジティブに捉えた発言があった。
最後に山岡氏から「日本でD&Iを進めていくには、トップダウン、ボトムアップどちらが有用なのか」と投げかけがあり、西村氏は「両方必要。トップダウンはすごくパワーになる。一人ひとりがどうするか、どう生きるかを選んで表現できるかにもかかってくる。」と答え、加藤氏は、「トップダウンも大切。ボトムアップで風土づくりも重要。」と語った。それを受け「トップとかボトムとかを考えず、みんなで腹くくって、という考え方も必要ではないか」と山岡氏がまとめた。

登壇者の感想コメント

株式会社新生銀行 グループ人事部セクションヘッド 兼 ダイバーシティ推進室長 西村陽子氏

「D&Iは当社にとって欠く事のできない経営戦略です。サステナブルというより広い視点でD&Iを考えるとき、グループの枠を超えて、その実現に取り組んでいくことが有意義です。その一歩となる機会をいただけたように感じますし、自社の取り組みを振り返る契機にもなりました。
日本橋は日本の起点であり、老舗店舗・企業も多く、サステナビリティ経営を学ぶには格好の場所です。同時に、都会のど真ん中でありながら、小中学校や高校もあります。バックグラウンドが異なりながら、この土地を選び、ビジネスを営んでいる、ここで学んでいる、という縁をきっかけに、お互いの強みを共有できたらと思います。」

中外製薬株式会社 サステナビリティ推進部社会貢献グループ グループマネジャー 加藤正人氏

「D&I実現に向けては、やはりお互いの違いを認め合うということが大切だと感じました。そういう意味でも異業種での集いは、違いがあることを知り、そこから学びを得るということで有意義であると思います。また普段出会うことがない業種の皆さまに、弊社の取組について知っていただける良い機会でもありました。
SDGsに対しては若い世代のみなさんの関心が高いです。この日本橋の近くにもたくさんの大学があるので、大学生の参加を呼びかけるようなプログラムも良いのではないかと思います。」

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